イギリスで暮らすことになって、

初めはエクセターと言う街の語学スクールを頼りに学生ビザを獲得してイギリスに渡ったのだけれど…。そしてその後も長くこの町で生活することになりましたが。

日本人はと言うか、特に私は長く学習塾を経営し英語を教えていた関係で文法的な事は知識として長年培われたものを持っていました。

ですのでペーパーテストになるといつもかなり良い結果を修めていました。

しかし日本人の悲しさ…。話す事、聞くことはとても弱いのです。

文法の知識がかえって障害となって、そこに捕らわれてしまい、

 会話に流暢さを失い、話せていないと自覚しますます焦ってしまって結果…

悪循環を繰り返していました。

聞くことで問題になったのは、特に年を重ねた老人の方の発音が聞き取れない。

若い方、女性の発音は音声のクリアさから聞き取れるのですが…。

そして私の発声方法…。

 日本人の特有な唇の先で発生する方法では私の話していることを聞き取ってもらうことは難しい…。

で、全部ひっくるめて対策をと言うことで…。

まず主人の友人の音楽学校の校長先生にボイストレーニングをお願いしました。

   発生を少しでも英語本来の形に近いものに変えるために。

次にお店で売り子さんの仕事に就きました。

  これは少しでも多くの英語と触れ合うために、

年齢、世代、性別の違いを超えて理解しなければ医師としては役に立ちません。

さらにイギリスに行って気が付いたことですが同じ島国でありながらイギリスは移民の国なのです。元の言語からくる訛りを聞き分けなければなりません。

ドイツ人の話す英語、フランス人の話す英語、オーストラリア人の話す英語、インド人の話す英語、すべて異なるのです。

さらに問題を複雑にしたのはイギリスは正式名称の連合王国(United Kingdom)

が示す通り複合国家なのです。

イングランド人であってもカーディフ人、スコットランド人の話す英語は聞き取りが難しく、その程度は聞く本人により異なるのです。

現に今もカーディフは二言語表記ですし…。

販売員として働くことでこの部分の技量がどれほどに獲得できたか、今も私にもわかりません。

最後に地元大学の語学スクールに入り直し、試験対策として会話の上での話し方テクニックの様なものを教えてもらうこととしました。

話し方として、聞いている人が会話を理解しやすいように会話の中に

however(しかしながら), therefore(したがって),eventually(最終的に)などの語を文頭にちりばめるようにと指導されました。文章を筋道立てて論理的に理解できるようにする道しるべのようなもの…らしいですが。

しかし、今もこうした言葉を使用することが合格か不合格かを決める要因となる、の説には疑いを抱いていますが…。

そうした授業の中での出来事…

ある日先生が『日本には出る杭は打たれる、と言う言い回しがあるらしい。』とおっしゃられました。そして私にこれは真実かと尋ねてこられました。

この時の先生は"出る杭は打たれる"の意味はかなり正確に理解しておられた、と思います。その理解に基づいて、私の心の中に悪魔が忍び込みました。

幸か不幸かクラスに日本人は私一人、ついついいつものいたずら心が起こって、こう答えました。

『確かにそうした言い回しはあるのですけれど、そのことわざには後半部があって…

それは出過ぎた杭は打たれない。』と。

その私の答えは先生はいたく感動され、なるほどそうか,深いな…。と何度もうなずいて納得されていました。

あれから20年余り…。

今も先生は日本人は『出る杭は打たれる。けれど出過ぎた杭は打たれない。』と言うのだよ、と教えているのでしょうか。

それとも、いつか誰かが私のいたずらに気付いて訂正してくださった…でしょうか???


私のボイストレーニングを行ってくださった現地の音楽学校の校長先生のクリストファー

  

                     私に個人的に語学レッスンを行ってくださったメアリー

   そして『時の流れの中に…』に登場したトーマス、主人の若い時…

     もちろん私も…

  ずっと若くなって…こちらはトーマス幼い時…