この医学的視点から魔女狩りを眺めて、という部分は私が担当した部分でした。
様々の、勿論英語の書籍を読んで、まとめたものでした。
情報が重複している部分もありましたし、また微妙に異なっている部分もありました。
情報を日本語で理解しながら、取捨選択し、まとめ、それをまた英語に書き直す、という結構大変な作業でした。
でもその中で思いがけない知識を発見することもあり、その時の感動を懐かしく思い出します。
では…
中世期の疾患の原因は主として飢餓、貧血、活力不足でした。
そうした身体的状況はそれ自身が死の原因となることもありましたし、
加えてペスト、ハンセン病、梅毒などの重篤な感染性疾患の原因ともなりました。
そしてそうした流行性の疾患の蔓延は個人レベルの不安に終わらず、社会的不安を引き起こすもととなっていきました。
人々は厳しい状況に教会に救いを求めましたが、全くの所教会は無力でした。
教会は
『あなたは罪深い存在故に神があなたを罰しているのです。
神に感謝しなさい。後の世には今ほども苦しむことはないでしょう。』
と説明するのみでした。
現在医療はまだ緒に就いたばかりで無力であるだけでなく、
費用は甚大なものであり一般民衆の手の届くものではありませんでした。
先にも述べた通り、
教会は病気にかかることを神の意思と考えていましたので、
その介入に反対すること、つまり治療することを神の業に対しての反逆とみなしていました。
しかし治療を求めて医療家の門を叩くことは教会から禁じられていても、
現実的に大枚の金を携えてヒーラーを訪ねる人々が存在したのは当然の成り行きでした。
この時代ヒーラーとして働いた人々は"wise woman(賢明な女性)”と知られ、
彼女たちは時にヒーラー(癒すもの)として、時には(産婆)として機能していました。
しかしながらこうしたヒーラーの行動は魔女狩りに対しての彼女達の危険性を二倍に高めるものでした。
まず彼らの行為そのものが神のなすべき業に対する反逆としてみなされましたし、
更に二点目、彼らの介入が不幸な結果に終わった時、遺族から悲しみの対象として
彼らの悲しみの行き所のないがために言われない訴えを教会に対して起こされる危険がありました。
その状況の最も悲劇的なものがヨーロッパを1360年代、1470年代、1480年代、1490年代の数回にわたって襲ったペストでした。
このペストの猛威によりヨーロッパは三分の一の人口を失ったとされています。
ペストの治療において医師もヒーラーも教会も全く無力でした。
発病から死に至るまでの時間はあまりにも短く、
患者の周りの家族ですらすぐに同様の病に冒され死亡していきました。
飢饉で人々の栄養状態が良くなく、抵抗力が減退していたことも状況に拍車を掛けました。
ペストの治療に有効なものは抗生剤でしたが、最初の抗生剤として名高いペニシリンの発見はフレミングにより1928年、実用の途に就いたのは1941年の事でした。
ですので上記の期間のペストの治療は無為なことを繰り返すしかなかったのです
比較的に長い経過をたどるハンセン病などの場合は症状の緩和に何らかの介入が功を奏したかに見えました。
しかし、ペストは2,3日のうちに朝は元気であったものが、昼頃には体調不調を訴え、夕には死者の列に伍していったのです。
すぐに家族もその列に…。
人々ができることは唯一、市外に遺骸を運び、遺棄することだけでした。
先に挙げたエクセター大聖堂の広大な前庭もペストの死者の遺骸で埋め尽くされた、と言われています。
あまりに悲劇的な状況に人々の悲しみと恐れはパニックとなり、状況に説明を求めました。
しかし誰も正確な理由も状況も分かっていなかったのです。
社会のヒステリーは高まり、非難の対象を求め、魔女とされた人々、ヒーラー、医師らがその犠牲になって行きました。
医学はこの時代迷信と未発見の理論の集積からゆっくりと進化してゆきました。
魔術、ヒーラーの業は迷信に基づくもの、秘かに家系のうちにつたえられていくものがほとんどであったのです。
数字の7に対し特別な信仰、唾液の使用、赤と言う色彩に対しての特殊な信頼、等々…。
今の現在人からすると、理解を超えたものと言うか馬鹿らしいというものがほとんどでしょう。
彼らが行った治療法は例えば…。
豚の足を洗って乾かしなさい。その足でお腹を撫でれば痛みはなくなるだろう…(沈黙)
とか、金貨を水の入ったツボに入れなさい。そしてそのつぼを3日間星空のもとにおいておく。
その水を毎日飲めばいかなる病気も治るだろう…
ある魔術使いの男性は傷口の消毒方法、腐った足の切断方法、熱した鉄などを使用して傷を焼灼する方法に非常に優れていたと言われています。
(でも、この時代まだ麻酔はないでしょう!私は絶対に嫌だ!!!
腕が良いとか悪いとか言うレベルの問題ではない!!!絶対にいやだ)
まだまだ奇跡的事例があり、これは化学的発見につながっているのです。
ロンドンに住む非常に熱心な内科医がある日某魔女が手の打ちようがないと言われた患者を治したという噂を聞きつけたのです。
その医師は彼の同僚からの嘲笑の的となりながらも、
彼女の許に連日訪問し、最後に大枚の支払いを行い、彼に教えられたのは小さな紫色の花をつける草花でした。
それが今も強心薬として使われているジギタリスです。
、

これが私達の自宅の庭に咲く
ジギタリスの花です。赤い花でなく、白い方の花です。