魔女たちが患者を治療するために行った魔術(?)は

幻覚剤の使用と強く関連していたと考えられています。

彼女たちが有していた幻覚剤についての知識は

長い年代をかけての累積されてきた経験と偶然の出来事から形成されていったものであろうというのが

妥当な結論でしょう。

彼女たちがこうした幻覚剤について現在医学と匹敵するような知識を持ち合わせていなかったであろうことは当然のことと考えられます。

幻覚剤が黒魔術会で使われたか、或いは黒魔術会を成り立たせる重要な要素であったかどうかは確かなことは分かっていません。

 黒魔術そのものが正確な記録を残すものではないことから、その存在自身も想像、伝承の域を出ないことは簡単に想像できるとおもいます。

動物に変身した或いは空を飛んだなどと言う幻影が幻覚剤のためにもたらされたものであるのか

それとも疾患がもたらす幻影のためなのか判断することは容易ではありませんでした。

ある種の疾患に苦しむ人が特に魔女狩りにおいて標的となったことは記録として残っています。

精神的な疾患或いは神経筋疾患に苦しんでいた人々が魔女或いは狼男として処刑されたであろうことは想定されています。

14世紀人々はてんかん性の痙攣、ペスト、ハンセン病、皮膚の潰瘍などに対し恐れをいだいていましたが、

ヒヨス、ベラドンナ、マンドレイク、ダツラなどの植物が主としてその治療に使われていました。

ただこうした幻覚剤が魔女狩り裁判において、

自白を引き出すために使われたであろうとも推測されているのはある意味歴史の皮肉と言えそうです。

幻覚剤が引き起こす幻覚ゆえに有罪とされ、処刑されていったのです。

上記に掲げた植物に学術的に少し詳述しますが

  

ナス目ナス科ヒヨス属ヒヨスヒヨス
ナス目ナス科オオカミナスビ属オオカミナスビベラドンナ
ナス目ナス科マンドラゴラ属マンドラゴラ・オフィシナルムマンドレイク
ナス目ナス科チョウセンアサガオ属チョウセンアサガオマンダラゲ

なのですがなぜかすべてナス科なのですよね。

このうち特に興味深いのはマンドレイクで、かなり古くから薬草として用いられている、と記されています。

そして魔術、錬金術の材料としても使用されてきたと。

幻覚、幻聴を伴い時には死に至らす神経毒が根に含まれていると。

中世では無理に引き抜こうとすると悲鳴を上げ、その悲鳴を聞いたものは発狂するとされていたそうです。


とばかげたことばかり書いて喜んでいないで、少しまともな方向に…

華岡青洲が世界最初に乳癌の手術に使った麻酔薬、

『麻沸散』別名『通仙散』には主としてチョウセンアサガオとトリカブト、そのほかの生薬の混合であったと伝えられているのです。

そして上記魔女と呼ばれる人が使った薬草の中にもチョウセンアサガオが含まれているのです。

ではなぜに華岡青洲はチョウセンアサガオを使うことを知っていたのでしょうか。それとも彼自身が偶然に見付けた物でしょうか。

その手掛かりとなるかもしれない古代中国の医師の名があげられています。

『三国志』、『後漢書』の中に登場する華佗です。

三国志に毒矢を受けた関羽に腕の手術をする場面が書かれています。

しかしその後、曹操の頭痛を治療するために魏に招かれ、頭を割って病根を取り除くことを提案し、結果暗殺を謀るものとして獄につながれ拷問の末殺害されます。

獄卒に自身の医術のエッセンスを伝えるも、獄卒の妻は主人が華佗と同じ目に合わされてはたまらないと彼の医術の記録を燃やしてしまいます。

華佗が活躍したのは3世紀ごろ…。

その頃の知識が別ルートでヨーロッパに伝わり、或いは日本に伝わったのでしょうか。

それとも真実は常に求める者の目の前にあり、その熱意のゆえに秘密の扉が開くのでしょうか。

今となっては想像するかほかならず、それだけに更に興味深いと言えるかもしれません。