今日たまたま患者の方と話をしていて思い出したことなのですが…。

癌治療中に起こった笑い話と言うと主人には気の毒ですが、でもイギリス人の日本人とはかけ離れた習慣に唖然とした話

とても興味深いので語らせて下さい。


12月の末が来るとがん発見からちょうど4年になります。

4年前の12月乳房の異変に気付いて京都のクリニックに行って、明けて1月中旬癌の確定診断。

2月早々の手術を予定して京大病院に転院。

で、手術前にPETを行い、前胸部の主幹たるリンパ節に癌が入っていることが確認され、一挙にステージがⅡAからⅢCにアップ。

それを聞きながらなんとなく母の最期が思い出されて

  『そうだよな。そんなに簡単に済むことないよね。』

と、心の中で納得していた。一人でイギリスに行ったり、日本国中を走り回っていた頃だったら多分抗がん治療はしなかったと思う。

だけれど、イギリスのすべてを捨てて日本に来てくれた主人がいる、そしてこんな私を医者として頼ってくれる患者の方がいる、

このまま終わらせる訳にはいかない…。

「余命はどのくらいですか?」私は尋ねた。

「私を頼っている人々がいます。その事を考えないと…命が限りあるものならばその人々のために必要な準備をしなければなりません。はっきりと教えてください。」

クリニックから京大へ道を開いてくれた主治医は

「今、その話はまだ早いと思う。はっきりとした転移は臓器にみられていないし。京大としては勝算があると思っている。」

「では、その勝算はどのくらいと考えていますか。」

「7割。しかし治療はフルコースで相当にきついものになると思う。」

7割、悪くないと思った。このままであれば死を待つだけだ。賭けてみるしかない。自分のためにそして私を頼ってくれている人のために。

「で、手術を延期してまず化学療法を始めるから。そののちに手術を行う。」

「どうして手術を先に行わないのですか?その方が転移の危険性は減らすことができるのでは…。」

「かなり昔のデータで手術を先に行っても化学療法を行っても治療成績に差がないことがわかっている。

今はそのデータが出た時よりも化学療法の薬剤がはるかに良くなっているので、化学療法を先に行った方が治療成績が良くなると考えられている。」

「では、すべてをお任せしますのでお願いします。」

のちに化学療法を先に行う理由について他の先生よりリンパの主幹に癌が侵入しているとしたら、

リンパの流れに沿って癌がどこかに流れている可能性が当然考えられるわけで、画像的に見つからない癌が体のどこかに潜んでいるかもしれない。

その癌は原発巣から流れていったものであるから同じものであるはず。

当然原発巣に効く化学療法であれば、目に見えない小さいどこにあるかわからない癌細胞も殺すことができるはず。

手術を後にすることで残っている原発巣に対する効果からその化学療法がきいているかどうかを確かめることができる、と説明された。


そして予定していた手術の日と時を同じくして抗がん治療が始まった。

抗がん治療は同じ薬剤を4回行い、薬剤を変えてさらに4回、行うことに決まっていた。

いずれの場合も抗がん剤の初回は入院して行うこととなっていた。

それほどに長い入院ではなく、3日から4日程度抗がん剤が極端な副作用を起こさないことを確認するためのものであった。


そして2種類目の抗がん剤治療の日。

私は入院して治療を行い無事に治療が終わった翌日、日曜日にもかかわらず退院することとなっていた。

日曜日の関係で会計も後日となり、早々に退院で、朝の8時頃京大病院南側の道で、キャリーバッグを傍において主人が車で迎えに来てくれるのを待っていた。

しかし待てど暮らせど主人が来ない。

待つことほぼ1時間。

突然私の携帯が鳴った。主人だった。

「今、どこにいるかわからないのだけれど?」

「はあ?」

「僕が今どこにいるかわかる?」

「そんなのわかるわけないでしょ!!」

どうも、よくよく話を聞いてみると、阪和自動車道から門真ジャンクションで左の分岐、第二京阪道に入っていかなければならない。

それが日曜日のために道が空いていて時間的に早く問題の地点に着いてしまって見逃してしまった。

それに普段と異なる車を使っていたことも彼の失敗の伏線になってしまった。

少し大きめの車なので普段使っている車よりもスピードが出てしまう、挙句に道が空いていた。

で、焦ってどこかわからないところで高速を降りてしまった。

降りなくてもそのまま北上続ければ名神に至るのだけれど、その道は教えていなかった。

で、彼はナビが使えない(日本語が読めないため)。

で、どこにいるか自分の居場所が分からなくなってしまった次第。

で、乗っている自動車のディーラーにナビの画面の事で電話するも朝が早すぎてつながらない。

緊急通報ボタンはついているがそれを鳴らしても会話ができるか…(日本語を話せない)???

なまじ話せなくて、変な風に誤解されて警察に連絡でもされたら大事になってしまう。

で、私はとりあえず京阪、地下鉄、南海を乗り継いで、友人に河内長野駅に迎えを頼んで自宅に帰ってきた。

で、その日の三時ごろ…

主人が帰ってきた。

聞くと、空を往く飛行機を眺めてそれの飛ぶ方向を見定めて帰ってきたのだ、と。

伊丹に空港があることと、関空の二つがあることはわかっている。

で、南に飛んでいるらしき飛行機を見極めて関空に行くのだと目星をつけて

そちらの方向入る高速道の入り口を探しながら(飛行機のしるしが書かれているのは理解している)、りんくうタウンを経て自宅に帰ってきたらしい。

関空、りんくうタウンはよく車で行くのでそこからの道は理解できている、と言う事でした。

空を飛ぶ飛行機を自身の帰る方向を見定める事に使ったという次第…でした。

って、どれだけ大回りをしているんだ!!!

スイスにて…